シュルレアリスムは、今日? 展覧会"Other Air"について。
Zavři oči a otevři okno.――目を閉じよ、窓を開けよ。
2月9日と10日、プラハの旧市街市庁舎で行われたシュルレアリスムの展覧会"Other Air(cz:Jiny Vzduch)"に行ってきました。
チェコとスロヴァキアのシュルレアリスト・グループの、1990年から2011年までの20年間の活動を総括するかなり大規模な展覧会です。上記2カ国の他、彼らと交流のあるグループや個人の作品が、イギリス、スウェーデン、ギリシャ、フランス、ルーマニア、アメリカなどの各地から集められています。(実は出品者のなかにはLiyota Kasamatsuさんという日本の方の名前もあります。スウェーデンのグループと交流のある方だそう。)
日本だとシュルレアリスムって、アンドレ・ブルトン世代のことやフランスのことばかりが取り上げられたり、60年代くらいで終わったことになってたりするんですが、実は今でもシュルレアリスムに共鳴する作家たちが欧米各地でグループを作り、互いに密なネットワークを築いています。日本だとヤン・シュヴァンクマイエルの所属するプラハのグループのことが、赤塚若樹氏(id:wakagi)などによって紹介されています(シュヴァンクマイエルとチェコ・アートを参照されたし)。1月にはアメリカでSurrealism in 2012という展覧会も開かれました。
今回の展覧会について知らせて下さったのはLeeds Surrealist GroupのKenneth Cox氏。欧州各地からシュルレアリストが集まるという話でしたので、片道13時間かけて凸してきました。
いくつか作品や会場の様子を御紹介。冷静さを完全に失っていたせいでろくな写真が撮れてなかったりするんですが……。
作家ごとではなく、「オブジェ」「磁場」「泉」「雷光」という4つのテーマに沿って様々な作品が配置されています。
プラハのグループは、60年代から80年代にかけて共産主義政権下で地下活動を行っていた経緯もあってか、集団での制作や活動に特に重きを置いているそうです。なので今回の展覧会も、個々の作家のスタイルやグループの国籍に焦点を当てることなく、むしろそれぞれの作品にあらわれたイメージの共振を狙ったかたちで構成されている感じです。
Mordysabbath(Ody SabanとThomas Mordant)によるドローイング。
すっごくこまかい。
ここはシュヴァンクマイエル夫妻のエリアでした。...ただ、今思うと、亡きエヴァさんに捧げられていた区画だったのかもしれない。
オブジェが並べられたガラスケース。
パリの画家Ody Sabanによるオブジェ。怪獣っぽい。
Katerina Pinosovaのクリーチャー。かわゆい。
シュヴァンクマイエルの瑪瑙の靴。去年のシュヴァンクマイエル展に瑪瑙のサンダルが来てましたね。
旧市街広場に面した窓。窓にはキャプションがつけられていて、アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言』の有名な「窓で二つに切られた男」のくだりと、1422年に広場で処刑されたフス派の神官ジェリフスキーのことと、プラハのシュルレアリストJan Danhelが見た夢の話(生首をかばんに入れて持ってる友達とメトロに乗ってる、という)が書かれています。キュレーターのBruno Solarik氏いわく「客観的偶然」だよ、と。つまりこの広場に面した窓自体が「見出されたオブジェ」なのでしょう。実はこの展覧会で一番ぐっときた場所だったんですが、マニアックすぎて伝わりにくいかも……でもシュルレアリスム好きな方なら、この感じ解っていただけるはず……。
展覧会は4月4日まで開催中ですので、プラハにお越しの際は是非、お立ち寄りください。Brunoさんに「どんどん宣伝して!」と言われたから頑張るさ。
こちらで英語の案内が読めます。
チェコ語の公式サイトはこちら。
日本にシュルレアリスムのファンはいっぱいいるし、シュヴァンクマイエルのファンもいっぱいいるし、研究者だっていっぱいいるにもかかわらず、こんな面白いことをやっている人たちのことが日本でほとんど知られていないのはほんとうに勿体ないです。みんなもっと現代シュルレアリスムに目を向けるべき。
というわけで少しずつこのダイアリでも、テクストや書籍を紹介していければと思っています。最初は独立したサイトにしようと思っていたのですけれども、しばらくこのダイアリ使っていなかったし、ということで。
☆appendix
チェコのグループの公式サイトはここ。またこのグループの歴史については、最初期から40年代ごろまではLenka Bydzovska氏の論文が、シュヴァンクマイエルがいた60年代から90年代くらいまでの時期の、特にグループでの解釈ゲームについてはKrzysztof Fijalkowski氏の論文がそれぞれオンラインで読め、また詳しいです。御興味のある方はどうぞ。
☆☆2012/03/11 追記
本展覧会のプロモーション・ヴィデオがvimeoに上がっています。
会場、セッティング風景、レセプションの様子などあり。
http://vimeo.com/37965809