■『Dr.パルナサスの鏡』みてきた(ネタバレ自重してません)


世界観もストーリーも美術も、すべてがわたし好みすぎて、一日たった今でもほとんど脳内が支配されているのですが。えー、観てきました、ギリアム最新作。このところモンティ・パイソンを集中的に観ていたので、パンフレットに載った監督の顔を観てつい「年取ったなあ!」と思ってしまった…。
きのうが最寄りのシネコンでの上映最終日で、実は体調があまり良くなかったからどうしようかなぁとも思っていたのですが、たぶん映画館で見ないと後悔するたぐいの作品だと思ったので、行くことに。
基本的に、「わたしの好きなギリアムワールド」をひたすら期待してたので、もう大満足な出来栄えです。監督自身も「自分の興味のあるものの抄録を作ろうと思った」と語っているので、まさに"Imaginarium of Terry Gilliam"なわけ。IMDbで☆7つということで、世間的な評判もぼちぼち良いのかな。

■パルナサス博士の鏡。その内側は<イマジナリウム>、訪問者のイマジネーションと博士の魔術がつむぎあげる夢の世界。
博士は娘のヴァレンティナと奇術師の若者アントン、小人のパーシーとともに、鏡を使った見世物をしながら、移動式舞台でイギリスを放浪している。そのゆく先には、奇怪な悪魔Mr.ニックの姿がある。永遠の命を得た博士は、彼との契約により、16歳になるヴァレンティナを悪魔に捧げなくてはならない。
彼女の誕生日の3日前、ニックは賭けをもちかける。「もし自分よりも先に5人集めたならば、娘を奪わずにおいてやる」…。

■パルナサス博士の一座は、道中でトニーという名の青年を助ける。彼は記憶を失っていて、素性は一切知れず、なぜかロシアンマフィアに追い回されている。しかし一座に加わったトニーは巧みな話術と甘いマスクを使って、次々に鏡の中へと客を呼び込んでいく。
鏡の中の世界では、悪魔が罠を張っている。客は選択を迫られる。悪魔の側につくか、それともパルナサス博士の側につくか――。イマジナリウムを舞台に悪魔と一座の激しい攻防が繰り広げられる。

■イマジナリウムの光景はさにあらん、舞台や衣装・小物のデザインも漏れなく美しかった。やっぱりギリアムはイメージとデザインの人なのだなーと。個人的に気に入ったのがMr.ニックのたたずまいで、なんのメーキャップもないのに、その動きや表情からにじみ出る悪魔感(それも小物の)が半端ない。
子供のための慈善団体の幹部だったトニーの本性、彼が子供をダシにする狡猾な極悪人だったのか、それともマフィアに陥れられ失脚した悲運の人物だったのか、このところは最後まで決定的な回答が示されない。実のところ、まっすぐなカタルシスは無い、ちょっと皮肉の効いたクライマックスと結末なので(ラストは子供と小人のパーシーのこんな会話で締めくくられる。「ハッピーエンドなの?」「いや、それは保証できないね」)、ここで好みが分かれるのかな。
 
■イマジナリウムで一番気に入ったシークエンスが以下。
鏡の中に逃げ込んだトニーを追ってロシアンマフィアがわらわらと駆けてくる。すると地中から全長10mくらいの警官の頭がサイレンと共に回転しながら現れ、口の中からプリーツスカートと網タイツをはいた警官(全部男)が現れてへんてこな踊りをおどる。かと思うと、すぐそばにおかあちゃんと田舎の一軒家が出現し、マフィアたちに「帰っておいで!」と叫ぶ。警官のキモいダンスに辟易したマフィアたちは泣きながらそっちへ走っていくが、実はおかあちゃんも全長10mくらいあった。次々とおかあちゃんのスカートの中に入っていくマフィアたち。全員入ったところでおかあちゃんの首がすぽんと取れて操縦席が現れ、悪魔が現れて叫ぶ。「俺はシカゴに行くぞー!」
 
■「うわっ、『空飛ぶモンティ・パイソン』のアニメが3Dになった」と思った。

■このシーンの直前にはおばちゃんに扮したアントンがマフィアに喧嘩を売るシーンもあり、ああ、もう、まんまペッパーポットじゃん。