シュルレアリスムは、今日? その2

■To be Continued... / ものがたりはつづく
Kenneth Cox
日本語訳:かわかみはるか / Haruka Kawakami
 
[以下は、Leeds Surrealist Groupによる雑誌Phosphorの創刊号「Narratives of Absence/不在についての物語」(2008年)の巻頭に掲載されたテクストです。]
 
シュルレアリスムの「遺産」をあちこち探し回るひとたちが、シュルレアリスムそのものの継続に目を向けようとしないのは皮肉なことである。だったら、と彼らは訊くかもしれない、今日どこにシュルレアリスムを見出すことが出来るというのか? シュルレアリスムの中心を設定することは――それはパリ以外のどこでもないと長いこと信じられてきたが――無意味なことだ。またその円周を、決して手の届かない場所か、さもなくばあらゆる地点に描いてみせるのは、もっと問題のあることだろう。言うまでもなくそれは、ある種の専門家たちがわたしたちに信じ込ませてきたように過去に限定されるものではないし、未来のほうはといえば「それがある限り続く」のである。

では、今日シュルレアリスムはどこにあるのか? わたしはためらうことなく、シュルレアリスムシュルレアリストがいるところに見出される、というジェラール・ルグラン*1の話を繰り返そう。もちろん、今度は、「シュルレアリストとは誰か?」という問いが持ち上がる。“あなたがその問いの意味を理解したときにだけ、わたしたちは答えを示すだろう”。
 
今日のシュルレアリスムの力学は、組織化されたグループと彼らの公共の場への活動・投影などにとどまらず、独りきりの冒険を好む個人の間においても、さまざまな動径を世界中で形成している。これらの動径を、ひとつの動態によって立ちあげられる「ムーヴメント」と呼びうるような形にまとめるものは何だろうか? 端的に言って、シュルレアリスムはひとつの活動や活動の一カテゴリ、あるいはひとつの公式などに矮小化されるものではないのだと、わたしは強く主張したい。「シュルレアリスム的」と呼ばれる実践を規定するのは、社会的、政治的、そして倫理的な側面から駆り立てられた、意思と知性に対する疑問である。だから、さらに言えば、それはひとつの“感受性”、つまり世界に対する見方と行動の仕方なのである。
 
そうした「動径」のうち最も新しいもののひとつであるこの“Phosphor”において、わたしたちは、シュルレアリスムの創造的なルミネセンス*2が現在もなお続いている証を示し、その独自の感受性を確認することを目的としている。その過程で、わたしたちは芸術も文学も、また、わたしたちが示したものがその表現形式のみによって誤解されることも、恐れはしない。わたしたちは今でも、必然的に伴うであろう誤解のリスクを背負って、こうした土俵に上がることができる。“わたしたちにはその違いがわかっている”。
 
■Leeds Surrealist Groupについて
1994年にKenneth Cox, Bill Howe, Sarah Metcalfの三人がイングランドのリーズで立ちあげたシュルレアリスト・グループ。現在のメンバー数は11人。
2008年から機関紙Phosphorを不定期に発行しており、ここには詩やオブジェなどの作品、グループによるワークショップの報告、各国のシュルレアリストによるテクストの英訳や出版物についての情報が掲載されています。今回訳出したのはその創刊号の編集前記にあたる文章です。
また、リーズのグループは他国のシュルレアリストたちとのコラボレーションも活発に行っているようで、以前紹介したOther Airにもここのメンバーが作品を寄せています。
 
公式サイトは以下。
http://leedssurrealistgroup.wordpress.com/
また、Phosphorの他、彼らの出版物は下記のサイトから購入できます。
http://www.surrealisteditions.co.uk/
 
最後になりましたが、翻訳・掲載の許可を下さったLeeds Surrealist Groupの皆様に感謝致します。
I deeply appreciate Leeds Surrealist Group for their permission of translation and reproduction of this article.

*1:最初期のパリのグループの、最後の世代にあたるメンバー。69年のグループの解散後、ポスト・シュルレアリスムを標榜する『クーピュール』紙の編集に携わる。参考http://blogs.yahoo.co.jp/art_nippon/21892305.html

*2:http://bit.ly/Ht9UT8